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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)235号 判決

大阪府門真市大字門真1006番地

原告

松下電器産業株式会社

代表者代表取締役

森下洋一

訴訟代理人弁理士

役昌明

大橋公治

平野雅典

永野大介

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官

伊佐山建志

指定代理人

神崎潔

新延和久

伊藤明

井上雅夫

廣田米男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  原告が求める裁判

「特許庁が平成8年審判第107号事件について平成9年7月25日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

第2  原告の主張

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和63年12月16日、発明の名称を「半導体装置の実装方法」とする発明(後に名称を「半導体装置の実装体およびその実装方法」と補正。以下「本願発明」という。)について特許出願(昭和63年特許願第319079号)をし、平成6年8月24日に出願公告(平成6年特許出願公告第66355号)されたが、特許異議の申立てがあり、平成7年9月12日に拒絶査定を受けたので、平成8年1月12日に拒絶査定不服の審判を請求し、平成8年審判第107号事件として審理された結果、平成9年7月25日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受け、同年9月3日にその謄本の送達を受けた。

2  本願発明の特許請求の範囲(別紙図面A参照)

別紙審決書「理由 1」写しのとおり(なお、請求項1記載の発明を以下「本願第1発明」という。)

3  審決の理由

別紙審決書「理由」写しのとおり(なお、審決における第1ないし第3引用例を、以下「引用例1、引用例2、引用例3」という。)

4  審決の取消事由

引用例1に審決認定の技術的事項が記載されていること、本願第1発明と引用例1記載の発明が審決認定の一致点と相違点を有することは認める。しかしながら、審決は、相違点の判断を誤った結果、本願発明の進歩性を否定したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)  審決は、相違点の判断の前提として、引用例2及び引用例3には、配線基板とICチップのように熱膨張率に差がある異種材料を接着する場合、熱膨張率の差によって生ずる熱応力等が当該接着部分を破壊するおそれがあるとの技術的課題が記載されている旨説示している。

しかしながら、引用例2には、「配線基板とICチップの熱膨張率の差によって生ずるストレスが半田バンプを破壊するおそれがあり」(2頁左下欄14行ないし16行)と記載され、専ら接着剤として半田を使用した場合の問題点が指摘されているにとどまる。また、引用例3記載の技術は、例えば、スピーカのボイスコイルとコーン紙との接着等に関するものであって、ICチップと配線基板のような微細箇所の接着に関するものではない。したがって、引用例2あるいは引用例3に本願発明と同様の技術的課題が記載されているという趣旨の上記説示は誤りである。

(2)  審決は、引用例2の技術内容を、ICチップの入出力端子と配線基板の電極のいずれかにゴム弾性を有する導電性ゴムバンプを設けたうえ、ICチップと配線基板とを当接して加熱すると、ゴムバンプが溶解してICチップ又は配線基板に「接着一体化される」ことによって、バンプ部分破壊のおそれを回避することと認定している。

審決の上記認定は、ゴムバンプの溶解によってICチップと配線基板とが接着一体化するという意味であると考えられる。しかしながら、引用例2記載の発明の技術内容は、ゴムバンプが一方の面においてICチップと接着一体化するとともに、他方の面において配線基板と接着一体化することによって、ICチップと配線基板との間に所定の間隔を維持するようにし、ゴムバンプのゴム弾性によって熱膨張率の差により生ずる応力を吸収するものであるから、審決の上記認定は誤りである。

(3)  審決は、引用例2には、可撓性を有する導電性接着剤としてエポキシ系あるいはアクリル系を始めとする各種の樹脂が例示されているとして、相違点に係る本願発明の構成は当業者が容易に想到できる設計事項である旨判断している。

しかしながら、引用例2には、エポキシ系あるいはアクリル系を始めとする各種の材料はゴムバンプの成形材料として記載されているのであって、可撓性を有する導電性接着剤として記載されているのではない。そして、ゴムバンプのゴム弾性を十分利用するためには引用例1記載のような凸型のバンプ電極は好ましくないから、引用例1記載の発明に引用例2記載の技術的事項の適用を考えることはありえない。したがって、審決の上記認定判断は誤りである。

(4)  審決は、本願第1発明の作用効果は、当業者ならば容易に予測できる域を出るものではない旨判断している。

しかしながら、引用例3に「変化の激しい電子部品材料は新素材や新技術(表面加工など)の登場で表面状態が接着にとって好ましいかどうか不明なことが少なくない.これは表面処理を含めて接着性の確認を行なうしかない.」(40頁左欄表5の下7行ないし10行)と記載されているように、極めて微細な半導体装置と配線基板との接着に関する作用効果の予測には困難なものがあるから、上記判断は失当である。

第3  被告の主張

原告の主張1ないし3は認めるが、4(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は、正当であって、これを取り消すべき理由はない。

1  原告は、引用例2には専ら接着剤として半田を使用した場合の問題点が指摘されているにとどまるから、引用例2に本願発明と同様の技術的課題が記載されているという趣旨の審決の説示は誤りである旨主張する。

しかしながら、引用例2記載の発明は、原告も認めるように、熱膨張率の差によって生ずる応力をゴムバンプのゴム弾性を利用して吸収するものである。したがって、引用例2の記載がゴム弾性を持たない半田以外の硬質接着剤にも妥当することは当業者にとって自明の事項にすぎないから、原告の上記主張は失当である。

なお、原告は、引用例3記載の技術はICチップと配線基板のような微細箇所の接着に関するものではない旨主張するが、審決は熱膨張率が異なる異種材料を接着する場合の問題点を引用例3から援用しているにすぎないから、原告の上記主張は失当である。

2  原告は、引用例2記載の技術内容に関する審決の認定は、ゴムバンプの溶解によってICチップと配線基板とが接着一体化するという意味であると考えられるが、引用例2記載の発明の技術内容は、ゴムバンプがICチップと配線基板との間に所定の間隔を維持し、ゴムバンプのゴム弾性によって熱膨張率の差により生ずる応力を吸収するものであるから、審決の認定は誤りである旨主張する。

しかしながら、引用例2記載の接続方法は、ゴムバンプをまずICチップに接着一体化した場合には次に配線基板と接着一体化し、逆に、ゴムバンプをまず配線基板接着一体化した場合には次にICチップにと接着一体化するものである。したがって、引用例2記載の発明はゴムバンプによってICチップと配線基板とを接着一体化する技術であるとした審決の認定に誤りはない。

3  原告は、審決は引用例2には可撓性を有する導電性接着剤としてエポキシ系あるいはアクリル系を始めとする各種の樹脂が例示されていると認定しているが、引用例2にはエポキシ系あるいはアクリル系等の樹脂はゴムバンプの成形材料として記載されているのであって、可撓性を有する導電性接着剤として記載されているのではない旨主張する。

確かに、引用例2記載のゴムバンプは本願発明の要件である可撓性を有する導電性接着剤と技術的意義が全く同一のものではないが、引用例2の「ICチップと配線基板とを当接し加熱するとこのゴムバンプが溶解してICチップまたは配線基板に接着一体化されるのでこのゴムバンプを介してICチップと配線基板とが電気的に完全に接触されたものになる」(3頁右下欄14行ないし18行)との記載によれば、ゴムバンプの少なくとも一部は接着剤として機能していることが明らかである。したがって、引用例2にはICチップと配線基板とを可撓性を有する導電性接着剤によって接着することが示唆されているとした審決の判断に誤りはない。

4  原告は、極めて微細な半導体装置と配線基板との接着に関する作用効果の予測には困難なものがあるから、本願第1発明の作用効果は当業者ならば容易に予測できる域を出るものではないとした審決の判断は誤りである旨主張する。

しかしながら、引用例2記載の発明が、極めて微細な半導体装置と配線基板との接着のために可撓性を有するゴムバンプを使用している以上、接着強さに劣る可撓性導電接着剤を使用するにもかかわらず信頼性の高い接続が実現できるという作用効果は、当業者ならば容易に予測できたことが明らかであって、原告の上記主張も失当である。

理由

第1  原告の主張1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の特許請求の範囲)及び3(審決の理由)は、被告も認めるところである。

第2  甲第4号証(公告公報)及び第6号証(手続補正書)によれば、本願発明の概要は次のとおりである(別紙図面A参照)。

1  技術的課題(目的)

本願発明は、半導体装置と回路基板上の端子電極部と電気的接続、特に導電性接着剤を用いるフェースダウンボンディング法による半導体装置の実装方法に関するものである(公報3欄8行ないし11行)。

電子部品の接続端子と回路基板上の回路パターン端子との接続には従来から半田付けが利用されてきたが、電子部品の小形化と接続端子の増加によって半田付け技術で対処することが困難になったので(同3欄13行ないし18行)、半導体装置を回路基板上の端子電極に直付けする方法、特に、半導体装置の電極パッド上に金属蒸着膜を形成し、その上に半田を付けて半田バンプ電極を形成したうえ、高温加熱して融着する方法が有効であるとされている(同3欄19行ないし30行)。

しかしながら、このような方法は、熱応力の影響を受けやすいこと、回路基板側の端子電極部が半田接続可能なものに限られること、加熱によって半田が広がり隣接部とのショートを生ずるおそれがあること、熱膨張係数の異なるSiと回路基板とを硬質の半田で接続するので熱応力に対して非常に脆いこと等の問題点がある(同3欄48行ないし4欄10行)。

本願発明の目的は、半導体装置と回路墓板との間で信頼性のある電気的接続を行うことができる実装方法を提供することである(同4欄11行ないし14行)。

2  構成

上記の目的を達成するため、本願発明は、その特許請求の範囲記載の構成を採用したものである(手続補正書3枚目2行ないし23行)。

3  作用効果

本願発明によれば、応力に対して極めて安定な電気的接続であり、かつ、微細ピッチの接続であっても隣接部とのショートのない信頼性の高い接続を得ることができる(公報6欄15行ないし22行)。

第3  そこで、原告主張の審決取消事由の当否について検討する。

1  原告は、引用例2には専ら接着剤として半田を使用した場合の問題点が指摘されているにすぎないし、引用例3記載の技術はICチップと配線基板のような微細箇所の接着に関するものではないから、引用例2あるいは引用例3に本願発明と同様の技術的課題が記載されているいう趣旨の審決の説示は誤りである旨主張する。

検討すると、甲第9号証によれば、引用例2には、「配線基板とICチップの熱膨張の差によって生ずるストレスが半田バンプを破壊するおそれがあり」(2頁左下欄14行ないし16行)、「導電性ゴムバンプがゴム弾性を有しているので、ICチップとガラス基板との熱膨張係数が整合していなくても、バンプがそのストレスを吸収し導電路が破壊されることがない」(5頁左上欄17行ないし右上欄1行)と記載されていることが認められる。また、甲第10号証によれば、引用例3には、「柔軟性」と題して「異種材料の接着が多い電子部品にあっては、熱膨張係数差から生じる熱応力が接着はがれの原因となったり、素子の損傷につながることもあるから応力緩和機能をもつ接着剤が好ましい.」(39頁右欄下から13行ないし9行)と記載されていることが認められる。

このように、引用例2及び引用例3には、例えば、ICチップと配線基板のように熱膨張率に差がある異種材料を接着すると、熱膨張率の差から生ずる応力が接着部分を破壊するおそれがあるので、応力緩和機能をもつ接着材料が好ましいことが記載されているが、これは本願発明の前記技術的課題の主要な部分と符合することが明らかである。したがって、引用例2及び引用例3には本願発明と同様の技術的課題が記載されているという趣旨の審決の説示に誤りはない。

この点について、原告は、引用例2には専ら接着剤として半田を使用した場合の問題点が指摘されているにすぎない旨主張するが、上記の問題点が半田以外の硬質接着剤にも共通することは技術的に明らかである。また、原告は、引用例3記載の技術はICチップと配線基板のような微細箇所の接着に関するものではない旨主張するが、前掲甲第10号証によれば、審決が引用例3から援用している記載は「電子部品用接着剤」(37頁冒頭)と題する論考中のものであって、第1表(37頁右欄下)には対象となる電子部品として集積回路及び印刷配線基板が挙げられいることが認められるから、原告の上記主張は失当である。

2  原告は、引用例2記載の技術内容に関する審決の認定はゴムバンプの溶解によってICチップと配線基板とが接着一体化するという意味であると考えられるが、引用例2記載の発明の技術内容はゴムバンプがICチップと配線基校との間に所定の間隔を維持し、ゴムバンプのゴム弾性によって熱膨張率の差により生ずるストレスを吸収するものであるから、審決の認定は誤りである旨主張する。

検討すると、前掲甲第9号証によれば、引用例2記載の発明は「半導体装置の接続方法」に関するものであって、引用例2には、「易剥離性フィルム上にICチップのボンディング・パッドまたは配線基板上の電極の配置と同様の開口部を(中略)開口させた金属板の開口部に硬化したときにゴム状弾性体を示す導電性インキを注入して易剥離性フィルムのボンディング・パッドまたは電極の配置と同様の位置に導電性インキ層を設けたのち、これをICチップまたは配線基板上に当接し、この裏側からホットプレスするとこの導電性インク層が硬化してゴムバンプになると共に、これがICチップまたは配線基板上に転写されるので、これから易剥離性フィルムを剥離し、ついでICチップと配線基板とを当接し加熱するとこのゴムバンプが溶解してICチップまたは配線基板に溶着一体化されるのでこのゴムバンプを介してICチップと配線基板とが電気的に完全に接触されたものになる」(3頁右下欄2行ないし18行)と記載されていることが認められる(別紙図面C参照)。この記載によれば、引用例2記載の発明においては、ゴムバンプをICチップ側に形成しても、配線基板側に形成しても、最終的にはICチップと配線基板とがゴムバンプを介して一体化する構成のものであることが明らかであるから、引用例2記載の技術内容に関する審決の認定に誤りはない。

この点について、原告は、引用例2記載の発明の技術内容として、ゴムバンプがICチップと配線基板との間に所定の間隔を維持することを挙げるが、本願発明の実施例を示す別紙図面Aを参照すれば、この点において本開発明と引用例2記載の発明との間に技術的に有意の差異があるとは考えられない。

3  原告は、引用例2においては、エポキシ系あるいはアクリル系等の材料は、ゴムバンプの成形材料として記載されているのであって、可撓性を有する導電性接着剤として記載されているのではない旨主張する。

確かに、引用例2記載のゴムバンプは、本願発明の要件である可撓性を有する導電性接着剤と技術的意義が完全に一致するものとはいえない。しかしながら、前認定の引用例2の記載によれば、ゴムバンプの少なくとも一部が溶解してICチップと配線基板とを接着する作用を果たしていることは明らかである。したがって、引用例2記載のエポキシ系あるいはアクリル系を始めとする各種の樹脂を可撓性を有する導電性接着剤の例示とした審決の判断を誤りということはできない。

この点について、原告は、ゴムバンプのゴム弾性を十分利用するためには引用例1記載のような凸型のバンプ電極は好ましくないから、引用例1記載の発明に引用例2記載の技術的事項の適用を考えることはありえない旨主張するが、半導体装置と配線基板との接着において、半導体装置のバンプ電極を凸型に形成することと、熱応力をゴムバンプのゴム弾性を利用して吸収することとが一義的に適合しないとする合理的な理由を見出すことはできない。

4  原告は、極めて微細な半導体装置と配線基板との接着に関する作用効果の予測には困難なものがあるから、本願第1発明の作用効果は、当業者ならば容易に予測できる域を出るものではないとした審決の判断は誤りである旨主張する。

しかしながら、前認定のとおり、引用例2記載の発明においても、可撓性を有するゴムバンプが極めて微細な半導体装置と配線基板とを接着して「電気的に完全に接触」する作用を行っている以上、接着強さに劣る可撓性導電接着剤を使用するにもかかわらず、信頼性の高い接続が実現できるという作用効果は、当業者ならば容易に予測できたことは明らかであって、原告の上記主張も失当である。

第4  以上のとおりであるから、本願発明の進歩性を否定した審決の認定判断は、正当であって、審決には原告主張のような違法はない。

よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成10年10月20日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)

別紙図面A

〈省略〉

1……半導体装置

2……電極パッド部

3……2段形状で凸型のバンプ部

4……可撓性を有する導電性接着剤

5……端子電極部

6……回路基板

別紙図面B

〈省略〉

1……半導体チップ

2……入出力端子部

3……電気的接続接点

3a……接点頂部

3b……接点底部

4……導電性接着剤

5……回路基板

6……導体端子電極

別紙図面C

〈省略〉

1……ICチップ

2……ボンディング・パッド

3……ゴムバンプ

4……配線基板

5……電極

6……封止用樹脂

理由

1. (手続の経緯と請求項記載の発明)

本願は、昭和63年12月16日の出願であって、その請求項1~4に係る発明は、出願公告後の平成8年2月9日付及び平成9年6月18日付手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1~4のそれぞれに記載された次のとおりのものと認める。

請求項1「半導体装置を基板上の端子電極部へフェースダウンボンディングにより実装した構成であって、前記半導体装置の各電極パッド部上に第1の突起部と、前記第1の突起部の上に形成されかつ前記第1の突起部の前記電極パッド部と平行な断面積より小さな前記電極パッド部と平行な断面積を有する第2の突起部とを備えた電気的接続接点を形成し、前記電気的接続接点と前記基坂上の前記端子電極部とが、前記第2の突起部の周辺に保持された可撓性を有する導電性接着剤により電気的に接続され、前記可撓性を有する導電性接着剤がエポキシ系、ポリイミド系、アクリル系またはフェノール系の導電性接着剤に可撓性を付与したものからなることを特徴とする半導体装置の実装体。」

請求項2「電気的接続接点が金または銅で構成されていることを特徴とする請求項1記載の半導体装置の実装体。」

請求項3「半導体装置を基板上の端子電極部へフェースダウンボンディングにより実装する方法であって、前記半導体装置の各電極パッド部上に第1の突起部と、前記第1の突起部の上に形成されかつ前記第1の突起部の前記電極パッド部と平行な断面積より小さな前記電極パッド部と平行な断面積を有する第2の突起部とを備えた電気的接続接点を形成する工程と、前記電気的接続接点と前記基板上の前記端子電極部とを、前記第2の突起部の周辺に保持された可撓性を有する導電性接着剤により電気的に接続させる工程とからなり、前記可撓性を右する導電性接着剤としてエポキシ系、ポリイミド系、アクリル系またはフェノール系の導電性接着剤に可撓性を付与したものを用いる半導体装置の実装方法。」

請求項4「電気的接続接点が金または銅で構成されていることを特徴とする請求項3記載の半導体装置の実装方法。」

2. (引用例の記載事項)

これに対し、当審において、平成9年4月4日付の拒絶理由通知書で通知した、その後発見した拒絶理由で引用された、いずれも本願出願日前に頒布された刊行物は次のとおりである。

(1) 特開昭63-275127号公報(以下、「第1引用例」という)

(2) 特開昭63-299242号公報(以下、「第2引用例」という)

(3) 「工業材料」第33巻第2号、昭和60年2月1日、日刊工業新聞社発行、第37~40頁。以下、「第3引用例」という)

上記第1引用例には、次の事項が記載されていると認められる。

半導体チップ1を回路基板5上の導体端子部6へフェースダウンボンディングにより実装する実装体に関して、前記半導体チップ1の各入出力端子部2上に接点底部3aと、前記接点底部から階段状に突出しており、且つ、前記接点底部の前記入出力端子部と平行な断面積より小さな、前記入出力端子部と平行な断面秋を有する接点頂部3bとを備えた、金、ニッケルまたは銅で構成されている電気的接続接点3を形成すること、

導電性接着剤層4を電気的接続接点3上にスタンピング法等により転写して構成すること、

次いで、導電性接着剤層4を回路基板5の導体端子部6と対向させ位置合わせした後押圧接着するが、この時、導電性接着剤の硬化は、ホットプレート等で加熱して実施すること、

以上のようにして、前記電気的接続接点3を形成した半導体チップ1と回路基板5上の導体端子部6とを電気的に接続すること。

(第2頁右上欄第6行~同頁右下欄第10行、第1、2図参照)

上記第2引用例には、配線基板の電極にICチップの入出力端子をフェースダウンボンディングにより接合する場合において、半田バンプのような硬質材料による接合では、配線基板とICチップの熱膨張率の差によって生じるストレスが、バンプ部分を破壊するおそれがあるが、ICチップの入出力端子と配線基板の電極とのいずれかに、ゴム弾性を有する導電性ゴムバンプを設け、次いで、ICチップと配線基板とを当接し加熱すると、このゴムバンプが溶解してICチップまたは配線基板に「接着一体化される」ことにより、このようなおそれを回避できること、及び、ゴムバンプを形成する材料として、アクリル樹脂やエポキシ樹脂があげられることが記載されている。

(第2頁左下欄第2~17行、第3頁左下欄第17行~同頁右下欄第18行、第4頁左上欄第2行~同頁左下欄第8行、第5頁左上欄第17行~同頁右上欄第1行、第1、4図参照)

更に、上記第3引用例には、「異種材料の接着が多い電子部晶にあっては、熱膨張係数差から生ずる熱応力が接着はがれの原因となったり、素子の損傷につながることもあるから、応力緩和機能をもつ接着剤が好ましい」とし、そのような接着剤の一例として、シリコーンゴム系接着剤を挙げている。

(第39頁右欄下から12~3行)

3. (発明の対比)

請求項1に係る発明と、第1引用例に記載されたものとを対比すると、第1引用例記載の「半導体チップ1」は、請求項1に係る発明の「半導体装置」に相当しており、以下同様に、「回路基板5」は「基板」に、「導体端子部6」は「端子電極部」に、「人出力端子部2」は「電極パッド部」に、「接点底部3a」は「第1の突起部」に、「接点頂部3b」は「第2の突起部」に、それぞれ相当しているから、請求項1に係る発明と第1引用例記載の発明との一致点と相違点とは、次のとおりである。

[一致点]

「半導体装置を基板上の端子電極部へフェースダウンボンディングにより実装した構成であって、前記半導体装置の各電極パッド部上に第1の突起部と、前記第1の突起部の上に形成されかつ前記第1の突起部の前記電極パッド部と平行な断面積より小さな前記電極パッド部と平行な断面積を有する第2の突起部とを備えた電気的接続接点を形成し、前記電気的接続接点と前記基坂上の前記端子電極部とが、前記第2の突起部の周辺に保持された導電性接着剤により電気的に接続された半導体装置の実装体。」である点。

[相違点]

導電性接着剤が、請求項1に係る発明では、可撓性を有するものであって、この可撓性を有する導電性接着剤がエポキシ系、ポリイミド系、アクリル系またはフェノール系の導電性接着剤に可撓性を付与したものであるのに対し、第1引用例記載のものでは、かかる限定がない点。

4. (当審の判断)

上記の相違点について検討する。

上記のとおり、第2及び第3引用例には、配線基板とICチップのような、熱膨張率に差がある異種材料を接着する場合、熱膨張率の差によって生じるストレスあるいは熱応力が、当該接着部分を破壊するおそれがあるという技術課題が記載され、このような技術課題を解決する手段として、特に第2引用例には、ICチップの入出力端子と配線基板の電極との接着部に、導電性バンプとして、弾性、即ち可撓性を付与した材料を介して接合することにより、このような技術課題を解決できることが示唆されている。

また、可撓性を付与した導電性の接着材料として、エポキシ系やアクリル系をはじめとして各種のものがあることも、上記のとおり、第2引用例に例示されている。

そうすると、第1引用例記載の実装体に係る発明を実施する場合において、上記第2及び第3引用例の記載に基いて、上記実装体の半導体チップと回路基板との熱膨張率の差に留意し、それらの電気接点を接合するための導電性接着剤として、必要に応じて、可撓性を有するエポキシ系等のものを選択して、請求項1に係る発明のようにすることは、当業者が容易に想到できる設計事項といえる。

次に、作用効果について検討する。

接着部分の形状を、第1引用例記載の電気接点のように、階段状に突出したものにすれば、平坦な接着面と比べて、保持される接着剤の量は、可撓性の付与の如何にかかわらず、多くなることが予測されるし、また、一般に、接着面の形状は、凹凸をつけて接着剤との接触面積を大きくした方が、接着を確実・強固にするために好ましいことはよく知られている。

そうすると、可撓性を付与した接着剤の適用部分の形状を、第1引用例記載の電気接点のような、階段状に突出したものにすることにより、「接着力が強化され、硬化型の導電性接着剤に比べて接着強さに劣る可撓性を有する導電性撞着剤を使用するにもかかわらず、信頼性の高い接続が実現できる」という、請求項1に係る発明の作用効果は、当業者であれば、容易に予測できる域を出るものとはいえない。

以上、請求項1に係る発明について、その構成及び作用効果について検討したところによれば、当該請求項に係る発明は、上記第1~第3引用例記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

なお、審判請求人は、当審から通知した上記拒絶理山に対して、平成9年6月18日付の意見書において、半導体装置を基板上の端子電極部へフェースダウンボンディングにより実装するための導電性接着剤として、可撓性を有するものを選択するのは想到し難いことであると主張し、次の旨を述べている。

可撓性を有する導電性接着剤は、応力緩和機能を持つものの、硬化型の導電性接着剤に比べると、接着強さが劣るため、電気接点のような微少面積の接着には不向きと見做され、このような箇所では専ら硬化型の導電性接着剤が位用されるのが技術常識であったし、第2引用例に記載されている導電性ゴムバンプは、バンプ電極に相当するもので、しかも、加熱処理が施されるものであるから、通常の導電性接着剤とはいえず、導電性ゴムバンプを形成するための素材の量も、導電性接着剤としての使用量に比べて遥かに多量で、接着面積も広くなる。(上記意見書の、特に、第3頁第12行~第4頁第24行参照)

請求人のこの主張の当否について検討すると、第2引用例の上記の記載事項と、同じく第2引用例における、従来技術等に関しての「微少ピッチにおいては、隣接する電極同志の絶縁性が損なわれ横導通による不良を引き起こす不利があり、接続ピッチは0.2mmが限界といわれている。」(第2頁左上欄第16~19行)、「印刷されたゴムバンプが±5μm程度の高度な位置情報を必要とする」(第3頁右上欄第1~3行)という記載からも明らかなように、第2引用例記載の導電性ゴムバンプも、可撓性且つ接着性を有する導電材料によって、「微少面積の電気接点を接着するという機能」を果たしているものであることは明らかである。

つまり、第2引用例記載の導電性ゴムバンプが、接着機能を果たす素材の使用態様や使用量、更には接着面積に関しては、第1引用例記載の導電性接着剤、あるいは、請求人がいう「通常の導電性接着剤」とは若干相違するところがあるとしても、この導電性ゴムバンプも、微少面積の電気接点を導電性の素材で接着するという、主要な基本的機能に関しては、第1引用例記載の導電性接着剤と軌を一にするものといえる。このように、第2引用例では、第1引用例記載の導電性接着剤にも共通する、上記の主要な基本的機能に関連して、接着される材料の熱膨張率の差異に基づく上記技術課題とその解決手段とを示唆している。

したがって、請求人が主張するような技術常識の如何にかかわらず、第1引用例記載の導電性接着剤として、第2引用例及び第3引用例が示唆するところに基いて、可撓性を付与したものを選択することが、当業者にとって想到し難いとすることはできない。

5. (請求項2~4に係る発明について)

請求項2及び請求項4に係る発明の、電気的接続接点を金または銅で構成する点は、上記のとおり、第1引用例に記載されている。

また、第1引用例には、導電性接着剤がエポキシ系、ポリイミド系、アクリル系またはフェノール系の導電性接着剤に可撓性を付与したものであるという点を除いて、請求項3に係る発明である、「実装方法」についても記載されている。そして、第1引用例に記載されていない上記の点は、上記の4.で挙げた、請求項1に係わる発明との[相違点]で指摘した点と、実質的に同じであって、その判断についても上記4.のとおりである。

したがって、請求項2~4に係る発明も、上記の4.で述べたと同様の理由で、上記第1~3引用例記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

6. むすび

以上のとおり、本願の請求項1~4に係る、いずれの発明も、上記第1~3引用例に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、当該いずれの発明についても、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

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